テレビドラマのように 誰もキャーとか奇声を上げる人などいなかった

ただ 不自然な動きをしている オレたち2人を

それこそ ドラマのワンシーンかのように 皆振り返り 眺めているのが分かった


オレは キレた


「ジロジロ見てんじゃねぇ! こっちは人が倒れてるんだ

救急車くらい呼べよっ!!」


オレは 崩れ落ちてきた樹花を 床に近いところで両手を使って抱き上げていた

自由のきかなくなった 両手で携帯を即座に押すことなど出来なかったのだ

オレは そのフラストレーションを見ず知らずのギャラリーに向けたのだった

オレの怒鳴り声に店員が駆け寄って来た


「お客様 大丈夫ですか?」


周囲のどこからか 誰かが救急車を呼んでくれているしゃべり声が聞こえた

店員が バスタオルとブランケットを持ってきた

とりあえず 救急車が来るまでその場で待機することにした

樹花の頭に丸めたバスタオルを敷き 身体にブランケットをかけてテラスの床に寝かせた


あとは 救急車の到着を待つだけとなった

オレと1人の店員が 樹花の側にいた

樹花がこうして目の前で倒れていても いつもと変わらない忙しい『時間』を

他人は消化している


『止まった者』は まるで違う世界に住む生き物のように 見下ろされ 過ぎ去られた


なにかがおかしい・・・


オレには まだそれをうまく説明することが出来ない

もっと大人になれば 説明出来るようになるのだろうか・・・


ピーポー ピーポー


それから約10分前後で 救急車は到着した

担架を持った救急隊員が駆けつけ 倒れた時に打った所はないかなど 側にいたオレに確認され

樹花は救急車へ運ばれた

オレも 樹花に渡し損ねた樹花の携帯を ジーンズの左ポケットに入れ

一緒に救急車に乗り込んだ


病院に到着し 樹花が処置室に運ばれるのを確認すると

オレは 急いで樹花の自宅に電話した