しばらくして香月を乗せた咲哉の車が校門を出て行った。
俯いたままの香月の姿が見えた。
「瑞樹?さっき手話使ってたよね?」
「あぁ」
「さっきの子、耳が聞こえないの?」
「あぁ」
「前に本屋で手話の本を見てたよね?さっきの子のために手話を覚えたの?」
「そうだよ。耳の聞こえない生徒のために教師である俺は手話を覚える必要があるからな」
「ホントにそれだけ?」
「それだけだよ」
「本当は……さっきの子が好きなんじゃないの?」
「生徒としては好きだよ。他の生徒も好きだ。俺の可愛い生徒だからな」
「そう……」
星羅が唇を噛みしめる。
香月のことは生徒じゃなく1人の女性として好きだ。
本当は“好きだ”と言いたかった。
でもそれを言ってしまったら、今の星羅なら何をするかわからないと思ったから言えなかったんだ……。
「話は済んだろ?もう迷惑だから……」
俺の前に現れないでくれ……。
俺は星羅に背を向けて歩き出そうとした時――。