「てか、やっと使わなくなったな、敬語」

ミルクティーを一口飲み込んでマグカップから口を離すと同時に、思い出したように言葉を漏らした。


「敬語? ……あ、本当だ」

「俺に本心を伝えて一線を越えたんだな」

「一線……?」

「うん。涼は、自分の中で線引きしてたんだろ?」

「……へ?」

訳の分からない事を言われて、間抜けな声を上げた私は小首を傾げた。


「敬語を使ってたのは多分、涼の中の“線引き”だった――と、俺は思うんだ」

春樹さんはそう言ってガラステーブルにマグカップをコトンと置くと、ソファの背もたれに左肘を乗せ、頬杖をついて体ごと私に向き直る。


「好きにならないように、馴れ合いにならないようにっていう“線引き”。だから涼は敬語を使って、一線を越えないようにしてた」