「夏休みは退屈でいけないわ。」
「だからといって怠けちゃいけないよ。」

彩己は意地悪く微笑む。葉月は莫迦にされたと思って憤慨した。二つの歳の差は縮まることがない分、彩己は常に兄貴風を吹かせている。葉月はそれが気に食わない。

「彩己だって暇を持て余してるからうちに来たんでしょう?」
「まあそうだね。」

自分のことは棚に上げて飄々としている。どちらが子どもかわからないわと葉月は聞こえないように呟いてから、一口頂戴と彩己のラムネ瓶を強請(ねだ)った。

「実はね、女学校の光子ちゃんからお祭りに誘われたんだ。」
「まあ光子に?」

光子は葉月と同じ女学校の生徒だ。彩己は確かに女生徒から人気があるが、自尊心の強い光子までが彩己を狙っているとは思わなかった。

「遊びに行くの?」
「さァどうしようかな。」
「勝手にすれば。」
「どうして葉月が怒るのさ?」

葉月がそっぽを向けば彩己が悪戯っぽくのぞき込む。なんだか悔しくて葉月はまた顔を背ける。

「怒ってなんかないけど、色んな女の子と遊びに行くなんて、相手の子に失礼よ。」
「そうかな?」

彩己は小さく首を傾げた。

「ぢゃあ行かない。葉月行こうよ。」
「私?」

葉月は半ば呆れてまじまじと彩己の顔を見た。

「私は構わないけど…光子はどうするの?」
「葉月と行くって断るよ。」
「えっ、やめてよ、気まずいぢゃないの。」
「そう?」

彩己はきょとんとしている。ホラどっちが子どもよ。可笑しくて少し微笑むと、彩己も笑った。