ホームルームを済ませ、部活がある生徒は部活へ、その他の生徒も各々帰宅の準備を始めてる。

「坂上くん、ちょっといいかな?」

席を立った坂上くんを呼び止めた。

「…いいけど。」

「少し話さない?」

来て、と彼を廊下に呼び出す。けど…

「ここじゃ、話しづらいね。進路相談室で話そうか?」

きっとなにかあったなら、こんな誰に聞かれるかわからない廊下より、室内のほうが都合がいい。


運よく相談室は空いていて、私は坂上くんを通した。


「なんすか、先生。」

椅子に腰掛け私をじっと見て、そう問う坂上くん。

「あのね…坂上くんいつも居眠りばかりしてるでしょ?だから心配で…なにか家庭に問題があるの?」

「…いや?」

心配する私を嘲笑い、続けた。

「先生に、相手にされたくて。」

「え?」

すっと手を伸ばしたかと思えばその手は私の手の上に。

とくん、と小さく心臓が跳ねたのがわかる。徐々に上がる体温。

「言ったろ?先生の生徒に惚れないってポリシー俺が崩すって。」

ニヤリと笑うその不敵な笑顔が私を金縛りにさせる。


「か、からかわないで!」

私は彼の手を払い、そっぽを向いた。

「からかってなんかねぇよ?…言ったろ?本気だって。」


坂上くんは両手で私の顔を押さえてわざと甘く言うから私は耳まで赤くなった。


「先生、耳まで真っ赤!」

そうケラケラ笑う顔は年相応なのに、時々見せるその色気が交じった顔。
そのギャップについてけないよ。

「先生、こんなガキの言葉でもドキドキするんだ?」

そう嫌味っぽく言う坂上くん。そんな彼にたじたじ。

「うるさいっ!で、本当は?」

「本当?」

「居眠りの理由よ。」

「言っただろ?お前に構ってもらいたいだけ。」

にやっとした笑顔だけを残し、彼は相談室を後にした。