チャイムも鳴り終わり、すぅと息を吸い込み、扉に手を掛ける。

「Hello,everyone!」

ニッコリとドキドキ高鳴る心臓が悟られぬように満面の笑みを作り、挨拶をする。

「先生、その缶コーヒーどうしたの?」

「あ、ちょっとね。気にしないで。」

ふふ、と笑う。
生徒に奢ってもらいました、なんてなんとなく言いづらくてはぐらかしてしまった。

「そのカフェオレおいしいよねえ!先生も好きなんだ?」

最前列の女の子がニコニコしながら私にそう言った。


「大好きだよ。程よい甘さがクセになるよね。」


「カフェオレの話はいいですから授業始めてください、柳先生。」

私を睨み付けそう言い放つのはこのクラス一の真面目…いや、秀才くん。

「ごめんね、つい…えっと今日は…、最上(モガミ)くんね。15ページの最初の段落から読んでください。」


教卓にさっきのカフェオレを置き、私は教科書と最上くんの顔を交互に見る。

音読は発音を重視。少しくらい読むのが遅くても、発音は大切だから正しくアクセントをつけられるように心構えておいてと、口が酸っぱくなるまでみんなに話した。

「はい、ありがとう。10行目のHoweverからピリオドまで大切だからアンダーライン引いてね。この構文は入試にもよく使われるから覚えておいて損はしないないよ。もちろん、中間にも出すからね。」


『この前の本気だから』
その坂上くんの言葉がぐるぐる回る。不謹慎だよね。でも何故か自分で制御できなかった。