連れて来られたのはいつかの自販機の前。
あの時のことが鮮明に思い出されて脈が速くなる。
「坂上くん、なに?」
その問い掛けに答えず、自販機に小銭を入れる坂上くん。
「はい。」
そう手渡されたのはカフェオレ。
「…え?」
「この前のお返し。」
本当に穏やかで優しい微笑みを浮かべるもんだからドクンと心臓が大きく脈打った。
「…ありがとう。」
「先生はカフェオレが好きなの?」
「そうね、あとはミルクティーとかココアとか。」
「甘ったるいのが好きなんだ。」
そう笑う坂上くんに私は少し俯いた。ほんの少し、腹が立ったから。
「いいじゃないの。…もう授業まで時間ないから走るよ!」
私がそう言い走り出すと坂上くんが私の手を引いて走った。坂上くんの方がずっと速くて私は彼に引きずられるように走った。
手から伝わる坂上くんの温もりに胸が締め付けられる気がした。片手には貰ったばかりの冷たいカフェオレの缶。
「ま、間に合った…」
奇跡的に教師に見付からなくて安心したのと、授業に間に合った安堵感が私の中に混ざっていた。
「私足遅いから引っ張ってくれて助かった。ありがとね、坂上くん。」
そうお礼を言うと、坂上くんは静かに微笑むだけだった。
「この前言ったこと、本気だから。」
それだけを言い残し、賑やかな教室に入っていった坂上くん。
この前…
それは恐らくあの日のことで。徐々に私の顔は熱を帯びはじめた。