もしかして気を遣ってくれたのかも知れない。
叔母さんまで出て行ってしまったドアを見てふと思った。
まぁ、あたしと隼人が付き合ってるってなっても別に変じゃないしね。

「奈々さん。俺ちょっと悔しかったんです。実は奈々さんうなされてるとき、星斗、星斗、って言ってたんですよ。それがちょっと悔しくて…」

黙って隼人の話を聞いた。
今はそれが一番正しい気がした。

「恋愛感情とかなしで、ですよ?あいつと離れてても、ちゃんと思われてるあいつがうらやましく感じたんです。俺にはそんな相手いないから」

寂しそうに隼人が笑った。
何だか胸が締め付けられた。
無理に笑ってるような顔で笑うから。

「だから、教えてやりました。星斗に。奈々さんが倒れた、俺が今見てるって。まぁせめてもの仕返しです。自分は行けないって思ってること、俺知ってますから。意地悪でしょ?」

次は少しだけ楽しそうに笑った気がした。
兄に意地悪をした弟の笑顔、そんな感じだった。

「…ほんとだよ。それで星斗が会いに来てくれたら嬉しいのになぁ。意地悪だけど感謝しちゃうのに」

「でも、俺が言った時、かなり機嫌悪かったっすよ?俺の女に手ぇ出すな、的な?」

俺の女に手ぇ出すな、発言が本当に星斗の思いと一緒ならうれしいことこの上ない。
それって星斗の好きって気持ちがもらえるんでしょ?
けど、所詮思っただけ。
正しい答えは星斗しか知らない。

「そうだといいんだけどなぁ…」

その呟きが隼人に聞こえたかは分からない。
隼人自身反応しようとしなかったし、あたしも反応して欲しくなかった。
勝手な憶測で星斗の気持ちを決めたくない。
…それはまだ自分にもチャンスはあるって思いたいだけなんだけど。


窓を見ると木が見えた。
どうやらここは2階らしい。
木に付いた鮮やかな緑の葉っぱが風にそよそよと揺れている。
夕日が葉っぱを照らしていて、微妙に茜色に染まっている。
夕方の外は昼間と比べて凄く涼しそうに感じた。