『あ、』


それは花火大会から数日後のことだった。
相変わらず、沙耶と翔太はラブラブで今日もデートなのであたしは独りで買い物。
ぶらぶらと街を歩いてた時、前からそちらも暇そうに歩いてくるのが見えた。

茶色の髪で星斗とよく似たあいつは、隼人。

「隼人…だよね?」

「俺以外の誰がいるんですか、奈々さん」

笑顔で言った隼人はやっぱ爽やか。

――――茶髪にした星斗が良かった、と言ったら怒るのかな?
あたしの本音なんだけど。
あれ以来、星斗の姿を見る事はない。
夏休みも中盤だと言うのにあたしの恋はストップしてる。

「何してるの?」

そう聞くと少し‘んー’と悩んでから

「買い物」

と笑った。

「そっか。あたしも。…一緒にする?買い物」

言うつもりはなかったけど、どこか寂しそうな隼人の笑顔を見て口が動いていた。
このまま隼人に恋出来たら…弱虫なあたしの心はそんな事を考えていた。

隼人なら、もう会わないって事もないと思う。
好き同士ではないけど、嫌いじゃない。

何より外見が…星斗に似てる。

そこまで考えて正気に戻った。
ダメ、何考えてんの。
失礼だし、あたしが好きなのは星斗だよ。

メガネで意地悪で黒い髪の星斗。
今さら星斗の代わりなんているはずない。

どこまで馬鹿なの、あたし。


「一緒ですか…?」

聞き返してきた隼人の声は何だか不安定。
あたしは急に不安になって

「うん…だめ?」

と隼人の顔を覗き込みながら言った。
そこであたしは気づいた。

星斗の身長は小さい。
まぁ、あたしがでかいんだけど。

それに比べて隼人はおっきい。
でか女なあたしでも話す時は見上げる形になる。
いつも、男子と話すときは大体目線が一緒だったから新鮮な感じ。

弟に越されるってきっと星斗悔しかっただろうな、って思うと不謹慎だけど笑えた。
だって、悔しそうに牛乳を飲んでる星斗の姿が浮かんできて。

笑ってるあたしを不思議そうにみる隼人。
急に笑い出したからね。

「だめ?」

返してこない隼人にもう一回聞く。
しつこい女だって思われたかな?