星斗の低い声とは違う男の人の声。
後ろを振り返った。

そこにいたのは

「星斗…?」

あたしは思わず呟いてた。
けどすぐに違うって気づく。

メガネしてないし、意地悪そうじゃない。
むしろさわやかな好青年?
髪は茶色だけど、優しそうな笑顔をしている。

その裏には何かありそうだと思うけれども。

星斗の名前を聞いた目の前の人は眉間に皺を寄せた。

「星斗か…君、星斗を知ってるの?」

「あなた…誰?」

質問されながらもそれに答えず聞いていた。
それほど、星斗によく似たこの青年が怖かった。

「俺の質問にも答えてほしいなぁ」

この人が笑った途端、鳥肌が立つのが分かった。
何でこんなに不気味なんだろう?


「星斗は…あたしの大事な人」

好きな人とまでは言わなかった。
それでもばれただろうけど、あたしの口からこの人に伝えたくなかった。

「大事ねぇ…あっもしかして奈々って言う子?」

星斗が名前を知っていた時は怖くなかった。
なのに、この人が自分の名前を知ってると怖くなるんだろう…?


「あなた、何なんですか。あたしと星斗の事なんてほっといて下さい!」

気がついたら言っていた。
何だかこの男に自分と星斗の事をべらべらとしゃべられるのはいやだった。
体の中を動き回ってるみたいで。

誰でも見知らぬ人に噂されていたら嫌だ。
特にほめ言葉とは受け取れぬような口調でされたら。

「俺は星斗の弟だよ。奈々さん」

次の瞬間彼から発された言葉に耳を疑った。
そりゃ確かに似てるけど、あんなに優しい彼の弟…?
あまりにも性格が違い過ぎる…

「信じられない…って顔してるね?
でも俺は正真正銘あいつの弟だよ。疑って当然だよ。
俺とあいつじゃ背負ってきたものが違い過ぎる」

違い過ぎる、と言われて心の中を読まれたかと思ったけど違う意味で使ってたらしい。
背負ってたもの…
あたしが知らない星斗…

でも、それはこの人の口から聞いてはいけない気がした。


「俺の名前は、隼人。よろしく」