彼女は先程まで自身の細い足を乗せていた、おれの右隣の椅子に腰を下ろした。

「見たらわかるだろ、そこ、席取ってんだけど。それと、おれにも友達くらいいるっての」

「黙りなさい! あたしに逆らう権利なんて、あなたにはこれっぽちもないわ」

 おれの言うことなんてどこ吹く風といった具合に彼女はそう言って、鞄の中からルーズリーフと筆箱、それに指定の教科書を取り出した。

 おれが目を惹かれたのは、その筆箱だ。それは、おれの大好きなキャラクター、クマのプー太郎のデザインが施されていた。

同時に、なんだか偉そうな顎鬚を生やした初老の男が講義室に入ってきて、教壇に立った。

 どうやら、おれにとっての初めての大学での講義が始まるらしい。そんな歴史的瞬間に、横に座っているかなり怪しい女子高生風味な少女に構っているのもなんだか癪だったので、もうおれは無視しようと決めた。

おれは今まで生きてきた中での不真面目ぶりを反省し、大学では真面目に勉強しようと決めたのだ。

 別になりたい職業とかそんなものはないが、単位を手に入れる為にも講義をしっかり聞いておくに越したことはないのだ、きっと。

 教壇に立った男は、自身の紹介やら講義の方針やらをその見た目どおりに偉そうな口調で話した後、早速黒板に数式を書き始めた。