そのおれ自身の左手の薬指には真紅のマニキュアが塗られている。

 ああ、矛盾しているな、世の中は矛盾で溢れかえっている。これも、その一環だ。世の中矛盾だらけだとか愚痴っているおれ自身が、堂々とその矛盾の一端を担っているのである。悲しい世の中だ。

 まあ、おれ自身には、自分が人とは変わっているとはあんまり思えないのだけれども。おれはただの凡人だ。中二病であること以外は、ね。

 だからおれは「え? そうかな」なんて適当に答えておく。

 適度に雑談を交わした後で、黒い髪の方は大城哲平(おおき てっぺい)、茶髪の方は黒田貴英だと名乗った。それぞれ、『てっぺー』と『タカ』と呼ばれるのがご所望らしかったので、今後そう呼ぶことにした。二人は共に東京の同じ予備校で一浪の日々を過ごした仲であるらしかった。

 ちなみに、おれは「ユーキと呼んでくれ」と言ったのだが、何故か「ユッキー」という、女の子のようなあだ名で呼ばれるという憂き目に遭った。やはり今日は厄日だったのかもしれない。くそう、今日のO型の運勢は最悪だと、美人なタレントが朝の番組で言っていたに違いない。きっとそうだ、人の不幸を、万面の笑みで。