つまり、何を言いたいのかというと、これから少なくとも一年間は一緒のクラスの一員となる、この講義室にいる人々の頭の中に、おれについての痕跡を与える為の機会を逸したということだ。

その痕跡がたとえ雨水一滴程の印象であったとしても、予想以上の効果を発揮するものなのである。他愛も無い会話中に急にその記憶が蘇り、親近感を抱いてもらえたりしたらラッキィではないか。そこから、表面上であろうとも仲良くなれる。

危ない人たちとはお近付きにはなりたくない。かといってあまりにも普通な人間と仲良くしても面白くなさそうなのだが、まあ友達はいるよな。

仲良くなっておけば、何かと便利なのである。大学を楽して卒業する為の必要条件なのだ、クラスの仲間を増やしておくことは。

入学初日からこんなことを考えている時点で、天罰を下される権利は十分にありそうだが、天罰を下されようとも卒業せねばならんのだよ!

「それにしても……なかなか京大生らしくない格好をしているね」また、黒髪の方が口を開いた。大人しそうな見た目に反して、なかなか饒舌な方なのかもしれない。「ま、こいつもだけど」

 こいつといわれた茶髪の方はうっせーよと言いながら、おれのことをじっと見ていた。