「暑いか暑くないかといえば暑いが、暑いと言ったところで涼しくもならんだろう」
 知は正論を言う。

「へいへい、どうせ俺は暑さに耐えられない凡人ですよ」
 嫌味を返してやった。

「それより、山に行かないか?」
 知が珍しいことを言う。

 この男から遊びに誘うというのは、初めてのことだ。

 がば、とはね起きる俺。

「いいねえ。涼しそうだ」

「一度夏山というのを描いてみたい」

「ああ、なるほどね」

 俺にとって、知の動機などどうでもいい。

 まさか、一日中絵を描いているというわけでもあるまい。

 とりあえず避暑にはなるだろう。

「海でもいいけどな。夕焼けの海か夏の日差しが射す山か、実のところ迷ってる」

「よし。じゃあ、俺がみんなに聞いといてやるよ」

「みんな?」
 不審な顔をして聞き返してくる知。

「さうす・りばてぃーのみんなだよ。まさか、俺とおまえの男二人きりで出かけようってんじゃないだろ?」

「ああ……そうだな。任せるよ」

 意外なことを言われたような顔をして、知はうなずいた。

 どうもこの男の頭に、みんなでワイワイいくというのはないようだ。

 俺なんかはむしろ場所よりそっちのほうが目的だったりするのだが。

 もっとも、知が女にがつがつしてるシーンというのは想像できない。

 本当にモテるやつというのは、こんなものなのかもしれない。

 どっちにしても、モテない俺には関係ないことだ。