時刻は六時を指していた。

「あっ、いけない。もう帰らないと、夕飯の時間に間に合わないじゃないですか」

 時計を見て、見由が慌てだす。

「いいよ、見由ちゃん。今日はこのゆうくんが私たちにどうしてもおごりたいって言うから、ごちそうになりましょ」

「え? お兄ちゃんが?」
 くるっと振り向き、俺のほうを見る見由。

 なんか、微妙におごる人数が増えてる気が。

「まさか、おごらないなんて言わないよね、ゆうくん?」

 穂波は笑顔で圧力をかけてくる。

 この笑顔は、怒った顔よりずっと怖い気がする。

「おうよ。なんでも好きなもの食べてくれ」

 棒読み口調で、俺は言った。

 言わなければ、俺は殺されてしまうに違いない。

 俺たちは達也に電話をし、今日の料理は俺たちの分を作らなくてもいいと伝えた。

 お互い学生なので、こういうところは融通を利かすようにしている。
 
 そして、駅前のファミレスに入る俺たち。

 二人がもっと高い店に行きたいと言わなかったのは、俺の財政事情を気遣ってのことだろう。

 仕送りが入り、一息ついたものの、全体として苦しいことにはかわりない。

 そのうち、バイトでも始めねばなるまい。
 
 店の奥の禁煙席に陣取る俺たち。

 上座は女性陣に譲り、俺は二人分の席を悠々と自分のものにした。

「そういや、見由は今日、文芸部行かないで平気だったのか?」

 俺が聞くと、見由はこくんとうなずいた。

「はい。もともとそんなに強制的な部ではないですから、大丈夫です。今週はずっと顔出してましたし」

「そっか。見由も作品とか作るの?」

「ええ。私は、詩をつくろうと思ってます」

「詩を作れるんだ。すごいね」

 感心したように、穂波が言う。そういえば穂波も、詩とかは結構読むほうだっけ。

「できたら見せてよ」

「はい、お見せします」

 そう言って、にこりと微笑む見由。応対も丁寧だ。

 思うに、この子は見た目によらず、と言ったらたぶん怒られるだろうが、けっこう精神年齢は高いような気がする。

 外見のイメージ的には、一人称を名前で呼んで、ランドセルを背負ってるような感じだが。