「ごめんなさい。私の話術レベルじゃ、言葉が思い浮かばなくて」

 と、穂波は率直に言った。

 穂波の身長は161センチ。

 穂波と比べても、見由は15センチも低い。

 穂波にとっても見由の身長は未知の領域だろう。

 別に低い身長を差別するわけではなく、低いなりにいいこともあると思うのだが、とりあえずさっきの状況ではどう言ってよいのかわからなかった。

 穂波にだけエプロンをさせているのもどうかと思ったが、見由のサイズのエプロンというのは、校内ではなかなか見つからないだろう。

 エプロンが地面にこすれている様を想像すると、おかしくはあったが、たぶん彼女をより傷つけると思うので、触れないことにする。
 
 しかし、そんな俺たちの逡巡とは裏腹に、戻ってきたとき、見由の機嫌はもう直っていた。

「汲んできましたー」
 独特の甘ったるい声で言う見由。

 顔にも笑顔が戻っている。わりと気分転換の早い子だ。

「ご苦労さん。じゃあ、それでぞうきんがけしてもらえるか」

「りょうかーい」

 見由はぞうきんで、机の上から拭き掃除を始めた。

 ぞうきんが瞬く間に黒くなっていくのがわかる。

 ものすごいほこりの量だった。

 そして、日が暮れる頃、俺たちの掃除はようやく終了した。

「終わったーっ!」

 俺たちはバンザイしながら叫んだ。

 掃除を始めてから二時間。

 二人が手伝ってくれたこともあって、予想より早く掃除は終わりを告げた。

 部室内はすっかりきれいになって、ロッカーもぴかぴかに光り輝いている。