まずは、椅子に上り、あちこちにかかっている蜘蛛の巣を払い落とす。

 続いて、ロッカーの上なんかにたまっているほこりを落とす。

 盛大にほこりが舞い上がり、俺たちは二人揃って大きく咳をした。

 この調子では、近いうち気管支炎になってしまいそうだ。

 マスクがあればよかったのに。

 ほこりを落とすのは、簡単そうに見えて、意外と手間がかかる。

 日常生活をしている空間でもそうなのだから、三年間手入れされていなかったこの空間では、なおさらだった。

 俺がはたきがけをしてほこりを落とし、それを穂波がほうきで拾い集める。

 掃除を始めて三十分ほど経った頃、入り口の扉をノックする者がいる。

 もちろん入り口は開きっぱなしなので、俺たちに存在を知らせるためのノックだろう。

 そちらを振り向くと、入り口付近に見由が立っていた。

「見由ちゃん、こんにちは」

 俺より先に、穂波が挨拶をした。

「こんにちは。珍しく活動してるみたいなので、見に来ました。お掃除ですか?」

 見由が笑顔で聞く。

 文芸部の部室は美術部の隣にあるので、活動を始めれば嫌でも目に入る。

「掃除以外の何に見える?」

 俺が言うと、見由は困った顔をした。

 彼女はちょっと意地悪をすると、すぐ困ってしまう。

 彼女の困った顔を見るのも、近頃の俺の楽しみの一つだ。

 我ながら陰湿だとは思うが。