「俺が一番よく知ってる。才能に勝る努力はない。
 今まで、俺より実力がなかったやつは、決して俺より努力が足りなかったわけじゃない。
 ただ、生まれ持った才能がなかっただけだ。
 不運なことに。
 努力しても、才能がない人間は報われないようにできてるのさ、この世の中は」

 知は寂しげな顔で言った。

 「孤高」という形容詞が一番似合うであろうその表情を見たとき、俺はなんとなくわかってしまった。

 この男は、才能があることを自慢してるんじゃない。

 むしろ、才能があることを自嘲しているのだ。

 自分には才能があっただけなのだということを。
 
 知の理論はおそらく正しい。

 しかし……、
 
『才能があって、努力もしているのに、報われない人間は、いったいどうしたらよいのだろうか』。

 知はそんな俺の心の動きには気づかず、話を続けた。

「それより、おまえに頼みたいのは」

「何だ?」

 多少身構えて、俺が聞く。

「部室の掃除。俺は作品を作るから、掃除は任せた」

 知に、俺は何も反論できなかった。