今年の予算も雀の涙ほどだが、それでもあるにはある。

 もちろんミーティング代と称して俺たちの胃袋に消える予定。

 それがなくなってしまうというのは、少し困りものだ。

「わかった。で、俺は何をすればいい?絵でも描けばいいのか?」

「いや、それは必要ない」

 意外な返事だった。

 呼ばれたときから、てっきりそれが用件だと思っていたのに。

 そんな俺に、知は言った。

「絵は、俺が描く」

「描いたことあるのか?」

「いや、まったくない。だが、なんとかなるだろう。なに、要は高校生大会程度で賞を取れるくらいの作品を書けばいいんだ。問題ない」

「問題ないって、それすごく大変なことのような気がするぞ」

「バカの百時間の努力より、天才の一時間の努力、さ。心配するな」

 涼しげな顔で、格言のように言い切る知。

 普通の奴が言えば傲慢にしか聞こえないその言葉も、この男が言うと、本当にそれが正しいように聞こえるから不思議だ。

「だいたい、どうせ世の中は結果しか見ないんだ。だったら、最小限の労力で結果を出したほうがいい」

「努力が必ずしも報われるとは限らない、ってことか?」

「ああ」と、知はキャンバスを見つめながら言った。

 何か思うところがあるようだった。

 俺の視線に気づいたのか、知は言葉を続ける。

「こないだ、仁科さんと話したんだ。
 彼女はほんとに一生懸命勉強してるよ。
 それこそ、授業中はもちろん、帰ってからも毎日二時間から四時間はやってる。
 俺の勉強時間なんか、足元にも及ばないくらいだ。
 それでも、俺と彼女のテスト結果はあの通りだ」

 俺はなんとか見由を弁明しようと、精一杯の言葉を紡ぎだした。

「でも、それはまだ努力が足りないってことかもしれない。もっと努力すれば……」

「無駄だよ」

 知は俺のささやかな抵抗を打ち消すかのように、断言した。