「おいしいですか?」
 見由が聞く。

 俺はそれに答えぬまま、隣の穂波の顔を見た。

 彼女も、ちょうどそのマカロニグラタンを口に入れたところだった。

 口に入れて、一口噛むと、目を見開いて俺の顔を見る。

「なんというか」

「これは」

 一言ずつだけで、後が続かない俺と穂波。

 見由が心配そうに聞いてくる。

「もしかして、おいしくなかったですか?」

 俺と穂波は首を横に振る。

「いや、まずくはないんだけど、その……」

 見由の頭越しに向こうのテーブルを見ると、やはり達也たちが、グラタンを一口、口に入れたまま動きが止まっている。

 俺はもう耐えられなくなり、右手をコップに伸ばした。

 それを合図にしたかのように、穂波が、そして達也たちが、いっせいにコップに手を伸ばし、そして水を口に流し込む。

 誰かが叫んだ。
「かっ、辛いーっ!」

 その叫んだやつは、誰だか知らないが、まだ立派だったと思う。

 俺なんかは、のどが焼けてしまい、何もしゃべれなかった。

 穂波も、のどの辺りが痙攣しているのがわかる。

「辛いですかねえ?」

 平気な顔で、ぱくぱくと食べる見由。

「うーん、言われてみれば、ほんの少し、辛味が効きすぎたかもね」

 同じく普通に、グラタンを口に運ぶ知。

 見ると、彼ら二人のそばつゆには、七味唐辛子が山のようにこんもりと盛られていた。

 二人を除く全員が、床をのたうちまわる。見由と知の二人以外は、誰も言葉を発そうとはしなかった。

「うん、辛味が効いてて、おいしいです」

「そうだね、やっぱり料理といえばこれだよな」

 俺たちの苦しみをよそに、にこやかに食事を続ける知と見由。

「もう二度と、あいつら二人は組ませるな……」

 うわごとのように、達也が言っているのが聞こえた。

 ――――俺はその日の夜、舌が痛くて眠れなかった。