知の勝ち誇った顔を見るのも嫌なので、俺は授業が終わると、さっさと隣のクラスに避難していた。
 
 達也の元に行き、点数を確認する。

 とりあえず、自分に自信をつけておかねば。

「達也、テストどうだった?」

「おう、97点だったぞ。すごいだろう」

「確かに、8教科あわせて97点というのは、尊敬に値するな」

 俺は胸をそらせている達也に、はっきりと言ってやった。

「そうだろう」

 鈍感なのか傲慢なのか、達也は威張っている。

 まあ、本人が満足ならそれもいいだろう。

 達也と並んで廊下を歩いていると、穂波とすれ違った。

「あ、ゆうくん」

 俺の姿を認めて、穂波は振り返った。

 振り返る際に、彼女の長い髪が何本か、制服の肩辺りに上がってきている。

「よお。テストどうだった?」
 俺が言うと、穂波は首をかしげた。

「うーん、だめみたい。300点がやっとだったよ。補習も二つくらっちゃった」

「お、じゃあ今回は俺の勝ちだな」

 なんて低レベルな争いをしてるのだろう、と俺は思った。

 そこに、いつのまにか来ていた星空が、会話に加わってくる。

「え、なになに?穂波って、あんまり頭よくなかったの? 意外ー」

「そう言う星空は?」

「やーね、女の子に点数なんか聞くもんじゃないよ」
 笑ってごまかそうとする星空。

「そうか。ま、補習頑張れよ」
 赤面する星空。

 俺の情報ネットワークをもってすれば、星空の点数を知ることくらいお手の物だ。

 情報ネットワーク――ていうか見由――によれば、やつの点数は300点台前半。

 俺の圧勝といってよかろう。

「でもさ、でもさ。私安心しちゃった。穂波みたいな子にも、ちゃんと欠点ってあるんだね。私、穂波って、何をやっても完璧なのかって思っちゃった」

「欠点だらけだよ、私」
 穂波はそう言って笑った。

「ま、人間何か一つくらい欠点があるもんさ」

 俺が穂波にというよりは、星空に向けてそう言ったとき、後ろからぽんと俺の肩に手を置く者がいる。知だ。