「ゆうくんは、平気だった?」

 穂波はうつむいたまま、上目遣いで聞いてくる。

「平気なはずないだろ。でも……もう慣れた、かな?」

「そっか。そうだよね」

 穂波は無理に笑おうとして、失敗した。また、視線を下に落とす。

 俺は、言わなくていいことを言ってしまったようだ。

「ごめんね」

 彼女は顔をゆがめた。眉を額に寄せ、目を細める。
 俺は、彼女がどんなときこの顔をするか、知っていた。

 泣きたくて、でも泣いてはいけないことを知っていて、自分ではどうしようもないときに見せる表情だ。

「穂波が謝ることじゃないさ」

「うん……ごめん」
 穂波はまた謝った。

 誰かに、この場の空気を破って欲しかった。