「ところで、悪かったな」
 沈黙を破って、達也が話す。もちろんベッドに寝転がったまま。俺はそのベッドのそばに座っていた。
「ん、何が?」
「旅行。キャンセルしたんだろ?」
「うむ。おかげで俺と穂波のラブラブ旅行計画がパアだ。大いに反省してもらおう」
 俺がそう言うと、達也は小さく笑った。
「何言ってるのよ、もう」
 そのとき、うどんの入ったどんぶりを手に、穂波がベッドのそばへとやってきた。その表情に、相変わらず照れだとか恥じらいだとかは見られない。ただ微笑んでいるだけだ。
「全然、気にしなくていいからね。自分で食べられる?」
「ああ、大丈夫だ。よっと」
 達也は体を上半身だけ起き上がらせ、うどんをすすりはじめた。
「おかゆを作っておいたから、おなかがすいたら温めて食べてね。鍋のまま冷蔵庫に入れておくから、出してそのまま火にかければいいよ」
 穂波が言った。相変わらず気の利くやつだ。ここに来てから何もしてない俺とは大違いだ。まあ、俺と比べるほうが間違っているのかもしれないが。
それから俺たちは、五分ほどつまらない話をして、部屋から出た。