「よお達也、元気か」
 俺は達也の部屋に入るなり、手をあげてそう言った。
「それって、使いどころ間違ってると思うけど……」
 穂波がさりげなくツッコミを入れる。ちなみに達也には、完全に無視された。それどころではなかったのだろう。熱で、立ってるのもやっとという状態だ。俺たちを迎え入れたあとは、すぐベッドにもぐりこむ。
 達也の部屋は、性格に似合わずきちんと整えられている。というより、家具が少なくて、散らかそうにも散らかせない状態といったほうが正しいかもしれない。冷蔵庫とテレビ、それに食卓兼勉強机――というのは名目上のことで、やつがこの机で勉強していることはほとんどない――があるほかは、ゲームくらいしかない。
一人暮らしをしていて、ビデオもない高校生の部屋というのは、いまどきこいつの部屋くらいのものだろう。おかげで、ビデオを見に押しかけられたりして、俺はいい迷惑だ。
「医者には行ったか?」
「ああ。ただの風邪だそうだ。二三日安静にしてれば治るってさ」
「ま、環境の変化やら部活やらで、疲れたんだろ」
 俺はそう結論付けた。顔色こそ悪いが、言葉ははっきりしていて、息も絶え絶えという感じではなさそうだ。
「達也君、ちゃんと食事はした?」
 穂波が、ベッドの隣に座りながら聞く。
「いや。朝から何も食べてない」
「うどんとかだったら食べられる?」
「少しなら大丈夫かな」
「じゃあ、今作るね」
 穂波はそう言って、台所に立った。包丁でトントンと音を立てて、ねぎなどを切っている。その姿は、なかなか似合っている。俺も達也も、しばらくその姿に見とれていた。