その日の昼休み、俺は隣のクラスに行って、穂波を呼び出した。隣のクラスで旅行のことを話すのは、人目があって恥ずかしいので、屋上に呼び出す。ついでに、二人ともそこで昼食のパンを食べた。
ここの屋上は、ベンチや花壇があり、学生にも開放されている。俺も昼寝のときなど、よくここを利用している。
 俺はベンチに座りながら、彼女に達也のことを告げた。
「そっか。風邪なら仕方ないよね」
 穂波は残念そうに言った。屋上の風で、彼女の制服の胸についたリボンが揺れている。うちの制服は、ブルーを基調にしたブレザーで、女子の制服は胸の辺りに紺色の蝶形をしたリボンが着いているのがポイントだ。
「それで、明日からの予定、どうするの?」
 穂波が俺に聞いてくる。
「どうするもこうするも、達也がこれないんじゃ、キャンセルするしかないだろ」
 他にどうするっていうんだ、と言いかけて、俺は気がついた。
「それとも何か? 俺と二人きりで旅行するとでも言うのか?」
 俺はいつもと同じ、軽い調子で聞く。
「まさか。不純異性交遊は禁止ですから」
 穂波はそう言って、楽しそうに笑う。俺が最初に「二人で行こうか」と真面目に言ったら、彼女はどんな反応をしたのだろう。その表情からは、とても真意を汲み取れそうにはなかった。
「俺は今日、授業が終わったら見舞いに行くけど、穂波はどうする?」
「あ、じゃあ私も行くよ。クラブはすぐ抜けてくるから、校門で待ってて」
「おっけ。その間に俺は見舞いでも買ってるよ」
 そんなことを言って別れたのが、今日の昼休み。