「じゃあ、趣向を変えて、温泉旅行なんてどう?」
 そう言ったのは、穂波だった。
「なんだかジジくさいな」
 俺は率直に言う。
「そんなことないよ。温泉って、今は結構若い子にも人気あるんだから」
 穂波は解説を入れた。まあ、俺も別に温泉は嫌いじゃない。達也も同意し、結局その方向で話は動くことになった。

 そして、旅行会社に行き、一通りのプランを立てる。近場の温泉なら、格安でいけそうだ。日帰りにしようかという案もあったが、なんとなく廃案になった。
誰も反対せず、さりとて賛成もしないまま消え去ったというのが正直なところだ。結局、一泊二日の旅行に落ち着いた。もちろん温泉だけでなく、何箇所か回ることになっている。その後、お金も払い込み、思いつきで決めた旅行はどうやら現実のものとなりそうだった。

ところが、4月30日になって、事態は急転した。 その日、例によって遅刻寸前に飛び起きた俺は、携帯に突然の着信を受けた。急いでいるので、画面を確認もせず着信ボタンを押す。誰だよ、と思いつつ電話に出た俺は、苦しそうな声を聞いた。それは、達也からだった。