「何だよ」

 俺が言うと、女は自分のテスト用紙を俺に差し出した。

 俺は黙ってそれを見る。用紙の上部に、古賀星空という名があった。

 そしてその下に、英語53点、国語40点、数学47点の文字が踊っていた。

「これはっ!」

 俺は一声叫ぶと、星空に握手を求めた。

「同志よ」

「これからもよろしくね」

 女がその手を握り返してくる。こうして、俺と星空は同志になった。

 その帰り道、俺は知や星空、見由たちと一緒に歩いていた。

 俺と星空は、すっかり意気投合していた。

 「赤点阻止同盟」なるものも結成してしまった。

 彼女は、知の中学時代の同級生らしい。

「ところで、星空は、部活って決めた?」

「あー、あたしはバスケ部。ほら、私、背高いしさ」

 星空はそう言って、自分の頭を平手でぽんぽんと叩いてみせた。

 確かに彼女の背は高く、170センチ近くありそうだった。

 俺が172だから、並んで歩くとほとんど変わりない。

 彼女がヒールでもはいた日には、完全に追い抜かれてしまうだろう。

 見由と比べると、その差は実に20センチ以上。

 とても同じ高校一年の女子とは思えない。

 見由の前では口が裂けても言えないセリフだが。

「そういう祐介は?」

「俺は美術部に入ることになった」

「えっ、あのクラそうな部?」

 星空ははっきり言う。

「失礼なことを言うな。全国の美術ファンに怒られるぞ。美術は心を豊かにするんだ」

 俺の言葉に、星空はちょっと首をひねって、それからまた言った。

「まあ、そうかもしれないけど。それにしたって、祐介には似合わないと思う」

「失礼爆発なやつだ。俺のような芸術に造詣の深い者にはぴったりの部だろうが」

 俺は得意げに胸をそらす。

「ゴッホはいつごろの人か知ってる?」

 星空はからかうように言った。

「うっ……」

 俺は言葉に詰まった。慌てて知を見る。

「それは、部長から答えさせてもらおう」

「いつから部長になったんだ」

 知は冷たい目でそう言った。答えないところをみると、この男も知らないのだろう。