「今回のテストの満点は300点で、平均点は176点だ。それを超えた者は、まずは安心していいぞ。ちなみに、学年の最高点は291点。岩田だ」

 おおー、とクラス中から喚声が上がる。太田先生はさらに続けた。

「次点は264点だから、まあ岩田の一人勝ちといってもいいな」

 どよめきはますます量を増す。そのうちの一つに、俺の声も混じっていた。

 こいつがそんなにすごい奴だったとは……。

 待てよ。ひょっとして、前に達也が言っていた天才とは、こいつのことか?

 というより、その順位からすると、こいつ以外考えられない。

 やがて、休み時間になり、知が嬉しそうに俺に話しかけてくる。

「というわけで、俺の勝ちな」

「申し上げることは何もございません」

 素直に平伏する俺。

「じゃあ、おまえのクラブは美術部に決定でいいな」

「殿のお心のままに」

 へへーっ、と言わんばかりに、俺は頭を下げた。

 それを見て、誰かが笑っている。見由でないことは、声でわかる。

「あははっ、天才君に挑むなんて、いい度胸だねっ」

 女の声だ。俺が顔を上げると、そこには見知らぬ女が立っている。

 長い髪を後ろでまとめた、健康そうな女だ。

 身長が高く、足もすらっと長い。なかなかのスタイルである。

 顔は普通だが、スタイルで得するタイプだ。

「ほっといてくれ」

 俺は突き放すように言った。女は笑って首を横に振る。

「いやいや、褒めてるのよ。彼と賭けをする人なんて、初めて見た」

「知らなかったんだ。てっきり俺と同類だと思ってたのに」

 俺は知をきっと睨んで言う。

「裏切られたよ。おまえだけは仲間だって、信じていたのに」

 わざと肩を震わせる俺。

「信じるから、裏切られるのさ」

 どこかのテレビドラマのようなセリフを言う知。

 はたから見れば、俺たちのやりとりは漫才にしか見えないだろう。

 その俺の手から、さっきの女がテスト用紙を奪い取った。

 そして、テストの点を楽しそうに眺める。

「ほう、ほう、ほう」

 女はわかったようにうなずいている。