抵抗を諦めた俺は、穂波と一緒に、デパートに買い物に来ていた。

 まあ、どっちにしても明日来るつもりだったからいいか、と俺は自分で自分を慰めた。

「あっ、これかわいい」

 穂波はぬいぐるみの一つを手にとって、女の子らしい声をあげた。

 彼女が手に取ったのは、パンダのぬいぐるみである。

 あいかわらずぬいぐるみ中毒な穂波だった。

「でも、こっちもかわいいかも」

 今度はくまのぬいぐるみだ。

 ちなみに、プーさんやらテディベアやらの有名どころには、見向きもしない。

 そんなものは、とうの昔に買ってあるのである。

 彼女が欲しがるのは、マイナーなものばかりだった。

「迷うね。これなんかどうかな」

 今度は猫のぬいぐるみを手に取る穂波。

 こういうときの彼女は、本当に楽しそうだ。

 穂波は普段から笑っていることが多いので、彼女をよく知らないやつなんかは、「品川さんはいつも楽しそうだ」なんて言っているが、あれは本当の彼女の表情を知らないからだと思う。

 この笑顔を見ると、これこそが本物の彼女の笑顔だということが、すぐにわかる。

 普段の笑顔の百倍はいい。

「ちょっと。ちゃんと選んでる?」

 穂波は少し怒った顔で、俺の袖を引いた。

 こうしてると、本当のデートみたいで、これも悪くない。