「あれ?」

 俺は離れた席に、よく見知った人影を見つけた。

「悪い、ちょっと席外す。すぐ戻るから」

 俺は言い残して席を立つと、その人影に近寄った。

「来夢さーん」

 俺は声をかけた。

「あら、安保君」

 来夢さんは俺のほうを振り向いた。

 その隣には、優しそうな男が座っている。

 俺が声をかけるまで、来夢さんと親しく話をしていた人だ。

「こんなところで会うなんて、珍しいわね。安保君は、誰かとデートかしら?」

 来夢さんはそう聞いてくる。

 からかうわけでなく、純粋な質問のようだ。

 実際、この人から悪意なんて感じたことがない。善意のかたまりみたいな人だ。

 だから、俺も毒舌でなく、普通に返す。

「いえ、友達と来ました。来夢さんこそ、デートですか?」

「そうね、そうとも言うわね」

 来夢さんはそう言って、にこりと微笑む。

 この人の笑顔を見ていると、なぜだかこっちが暖かくなる。

「あ、こちら、バスケ部の後輩の友達で、安保君。前に話したよね? で、こっちが、ええと……なんて紹介すればいいかしら?」

 来夢さんはちょっと首をかしげた。

「友達、でいいんじゃないか?」

 その男の人は言う。その態度で、彼氏かな、と想像がつく。

「はじめまして。来夢の友達で、高山です。よろしく」

 高山さんはそう言って、俺に握手を求めてきた。落ち着いた感じの人だった。

 その手を握りかえす。

「あ、そろそろ試合始まるわよ」
 来夢さんが言った。

「じゃあ、失礼します」
 俺は言い、席に戻った。

「どこ行ってたんだ?」と聞かれたが、適当にごまかした。

 順番に訪問したのでは、来夢さんも迷惑だろう。