「ところで、私は甘いものが好きなんですけど」

 ずうずうしく、見由が要求してくる。

 俺は仕方なく、おやつ用にとってあったクッキーを開けた。

「ほら、食え」

 犬にやるように、俺はそれをコーヒーとともに見由の前に差し出した。

「いただきまーす」

 見由は嬉しそうにそれにかぶりついた。

 まったく、このアパートの女は、どいつもこいつもろくなもんじゃない。

 俺をおもちゃのように思ってやがる。

「俺の手落ちは認める。だけど、そんなに見由にたかられる筋合いのものでもないはずだが」

 俺は至極まっとうだと思われる意見を言った。

 星空にならともかく、見由に迷惑をかけたとは思えない。

「あ、だめですねー。それじゃ、私が何でたかってるのかわからないって言ってるようなもんですよ」

 見由はにこにこ笑いながら言った。

「何か理由があるのか?」

「わからないですか?」

 わからないも何も、まったく心当たりがない。

 率直に言う。

「わからん」

 すると、見由は左手の人差し指をぴっと立てて説明してきた。

「つまりですね、穂波さんやお兄ちゃんと遊びに行くのに、達也さんが誘うとしたら、私か星空さんしかいないはずですよ。なのにお兄ちゃんが私に言っておかなかったってことは、私のことを忘れてたってことですよね? それじゃ、たいていの人は怒りますよ」

 見由は笑顔で言ってくる。

 しかし、今度の笑顔は、その裏に少し怖いものを感じたのは、俺の気のせいだろうか。

 俺が自分で星空に電話するつもりだったんだ、という言い訳も考えたが、下手な言い訳はしないほうがいいだろう。

「ごめんなさい」

 俺は素直に頭を下げた。

「はい、わかればいいんですよ。もっと女心には気を使いましょうね」

 見由は俺の頭をなでながら言ってくる。

 なんだかわからないが、すげーくやしい。

 子供に怒られた気分とでも言えばいいのか。

 屈辱だ。

 いずれ仕返ししてやる。
 そんな子供っぽいことを考えながら、相変わらず気が利かないことを実感した俺だった。