それから、十分後。

 胸をなでおろしつつ、俺は自分の部屋に戻った。

 それにしても、見由にその日予定があって助かった。

 最初に見由に電話をかけ、そのあと星空にかけるという達也の行動からすると、怪我の功名で、達也が星空の気持ちに気づいていないこともわかった。

 ――気づいていれば、最初から星空にかけるか、最後までかけないかのどちらかになるだろうから――。

 まだまだ俺には運があるようだ。

 ――――そう思っていた。その三十分後に、一人の客の訪問を受けるまでは。

 ピンポーン、とチャイムが鳴る。

 インタホンで、誰だか聞いても答えない。

 ドアについてるのぞき窓から外を見ても、誰も見当たらない。

 不審に思いつつドアを開けると、そこには見由が立っていた。

 身長の関係で、のぞき窓には映らなかったのだろう。

「おう、珍しいな。どうした?」

 俺が聞くと、見由は意地悪い笑いをした。

「お兄ちゃん、何か私にお礼を言わなきゃならないことはないですか?」

 子供がいたずらを仕掛けるときのようなその目を見たとき、俺はわかってしまった。

 こいつは、例のことを知っている。

 知ってて、あんな返事をしたんだと。

「とりあえず入れ」
 
 俺は慌てて見由を部屋の中に入れた。

 外は声が聞こえやすいから、万一達也に聞こえたりしたら困る。
 
 見由は部屋の中に入り、座布団の上に座っても、まだおかしそうに笑っていた。

「知ってたな?」

「はい。さっき、穂波さんから聞きました」

「穂波め」

 俺は聞こえもしない悪態をついた。

 こうなるのはお見通しだったということか。