それから俺は達也の部屋を訪問した。

 名目は、特にない。

 なんの名目もなくとも訪問するのは、俺たちにとって珍しいことではなかった。

「なんだ、また来たのか。まあ入れよ」

 そんな風にして、ごく自然に達也は俺を部屋に入れた。

 そして、達也は俺をそっちのけで、相変わらずゲームに熱中していた。

 その日やってたのは、プロ野球のゲームだった。

「なあ、達也。サッカーでも見に行かないか?」

「なんだ、いきなり」

 達也はゲームを中断して、俺のほうを振り向いた。

「いや、なんとなくだけど。こないだ体育でサッカーやってたら、プロの試合を見てみたくなってさ」

 俺がサッカーにしたのは、実のところあまり深い意味はない。

 バスケやバレーは、俺はあまりルールを知らないし、どこで試合をやってるのかも知らない。

 俺が詳しいのはサッカーと野球くらいだが、野球は近くにプロのスタジアムがない。

 ただそれだけの理由だ。

「まあ、行ってもいいよ。俺とおまえの二人か?」

「いや、せっかくだから、女の子も誘おうぜ」
 俺が言うと、達也はニイ、と不気味に笑った。

 もしかして感づかれただろうか。俺は寒気を感じた。

「なんだ、穂波ちゃんを誘いたいなら、素直にそう言えよ」

「は?」
と、俺は思わず口に出してしまった。見事な勘違いだ。

「よしよし、おまえもやっとその気になったか。じゃあ、人数は四人だな。一人は俺が誘ってやる。穂波ちゃんは、おまえが自分で誘えよ。日にちは、来週の日曜でいいか?」

「あ、ああ」
 俺は生返事をした。

 それはかなり違うのだが、せっかく誤解してくれてるなら、あえてその誤解を解く必要もあるまい。俺は黙っておいた。

 すると達也は、早速電話の子機を取り寄せた。