戸惑う俺に、星空は手を小さく左右に振って否定した。

「あ、もちろん一対一じゃないよ。穂波と二対二で、ダブルデートなんてどうかなって」

 ああ、と俺は心を落ち着かせた。

 一瞬、誘われたのかと誤解してしまったではないか。

 要は、穂波も含めて四人で遊びに行きたいということか。

「ダブルデートっていうか、四人で遊びに行くだけだろ? 別にいいけど、俺は誰を連れてくればいいんだ? 達也でいいのか?」

「う、うん」

 恥ずかしげにうなずく星空。

 どうもこの女の考えていることがよくわからない。

「そんなかしこまる話でもないだろ。今さら穂波たちとダブルデートって言ったって、別に俺や星空にとって得のあるわけじゃなし……」

 言ってから、俺は何か自分の言葉に違和感を感じた。

 何か違う。何か重要なことを見落としている気がする。

 星空のそぶりもあまりに不自然だ。

 俺はちょっと考えてみた。

 星空の様子からして、俺と穂波をくっつけようとかいう話でもなさそうだ。

 俺が得をしないとすれば、得をするのは――――

 ようやくそれに気づき、俺はハッとなった。

 フェンスから背を離して体を起き上がらせ、丸くなった目で星空を見つめる。

「星空、おまえまさか」

 星空は顔を真っ赤にして、うなずいた。

「あたし――――達也のことが、好きなの」

 夏も終わりに近づいた昼休みの屋上。

 雨上がりの湿った空気が、俺たちの間を流れていた。

【第五話終 第六話に続く】