穂波とも、すでにその話はしているらしい。

「知るか。俺はフラれたと思ってる。あとは星空がどっちを信じるかって話だ」

 星空は乗り出していた身を戻した。

 そして、人差し指と中指で、トントンと交互に机を叩く。

 何か考えているようだ。

「どっちを信じる?」
 ためしに俺は聞いてみた。

「決まってるじゃない。祐介を信じる」

 星空はきっぱりと言い、それから胸の前で手を組んだ。

「穂波みたいないい子が、祐介なんかにフラれたなんて、信じられるわけないもんね」

 星空は自信満々にそう言った。

「史上まれに見る失礼なやつだな」

「だって、そうなんでしょ?」
 当然のように聞いてくる星空。

「まあ、そうだが」
 俺が言うと、星空はまた何か考え始めた。

「でもね、それにしては……って気もするのよね」

 星空はまたぶつぶつと言っている。

 わからないなら断言なんかしなきゃいいのに、と思う。

「それにしては何だよ?」

「ほら、こないだ山に行ったとき、私たち二人が崖下に取り残されたでしょ? あのときの穂波の態度、どう考えてもフッた相手に対するものじゃないんだけどなあ」

「どういう風に?」

「ずーっと、祐介の名前だけ呼ぶんだよ。普通、助けて、とか誰かー、とか叫ぶでしょ?」

「知らんっちゅーに」

 穂波はそんなに俺の名前ばっかり呼んでたのか。

 ちょっと赤面する思いがした。

 星空はじっと俺の目を見て、それから顔を近づけてきた。

「あんたたち、本当は今もつきあってるんでしょ?」

「違う。それは断言してやる。俺と穂波は、まったくつきあってない」
 
 それは本当のことだ。別に、つきあってるのがばれるといろいろ面倒だから隠しておこうとか、そんな考えは微塵もなかった。

 第一、そんなことをしても、隠すほうが面倒だし、ばれたときはさらに面倒になるだけだ。

「怪しいなあ」

「怪しくない」
 そんな子供みたいなやり取りが続く。

 結局、その時間、宿題は一ページも進まなかった。

 次の日、星空から借りたテキストを頼りに宿題を進め、ようやくすべて片付いたのは、午前二時を回ったころだった。