「えー、なんで?ここまできたら、全部話そうよ」

「うるさいな。ていうかおまえ、本当はそれを聞きにきただろ」

 俺が言うと、星空は手を口に当てて、「ええっ?」と言った。

「英語のテキストを貸してあげてる優しい私に対して、なんてことを」

 わざとらしく話す星空。

 さっき簡単にテキストを貸してくれたのは、こういうわけか。

「返す」

 テキストを星空に押し返す。

 こういうやつに借りを作ると、ろくなことにならない。

「返してもいいけど、利子がつくよ」

 あくまで不敵な笑みを浮かべる星空。

 この分では、言うまであきらめてはくれなさそうだ。

 世の中に、好奇心を持った女ほど手ごわいものはない。

 俺は無駄な抵抗をやめることにした。

 視線を、少しだけ上に上げる。

「フラれたんだよ」
 俺は率直に言った。

「なんで?なんでフラれたの?」

 身を乗り出して聞きに来る星空。

 気のせいか、目の中に星が浮かんでいる気がした。

「フッたやつに聞け」

「ふうん」と星空は唸ってから、

「穂波は、祐介にフラれたって言ってたよ?」と言ってくる。

 俺の持っているシャーペンの芯が、ボキッと音を立てて折れた。