しばらく、部屋の中は無言になった。

 英語のテキストを写す俺と、古典の現代語訳にいそしむ星空。

 二人の動かすシャーペンの音だけが、部屋の中に満ちていた。

「ところで、質問していい?」

「どうぞ」

 目はテキストに落としたまま、質問を受ける俺。

「中学時代、穂波とつきあってたって、本当?」

 俺の手が止まる。

 ゆっくりと視線を上げると、興味津々といった顔で、星空がこちらを見ている。

 俺はなるべく表情を変えないようにしながら、彼女に聞いてみた。

「誰から聞いた?」

「祐介の中学時代の同級生」

「達也か」

 俺は即答した。

 そういえば、こないだ見由も、それらしきことを言っていた。

 あの野郎、いろんなやつにそのことを喋ったに違いない。

「どうなの? 事実?」

「事実だ」

 おー、と星空が声をあげた。

「わりと簡単に認めたね」
 星空がニヤニヤしながら言う。

「別に隠してるわけじゃないし」

「そのわりには、今まで言わなかったじゃない」

「聞かれなかったから」

 あくまで平静を装う俺。しかし、手は心なしか汗ばんできていた。

「で、なんで別れたの?」

「そういうプライバシーに関する質問にはお答えできません」

 俺はきっぱりと言ってやった。

 なんでそんなことをべらべらしゃべらなくてはならないのか。