――――そして、五分後。

「つ、疲れた」

 ボートの上でぐでーんとなっている俺がいた。

 そもそも、ラグビー部の達也に体力勝負を挑んだのが間違いだった。

 やつは船上でガッツポーズをし、穂波からの拍手を受けている。

 俺はといえば、見由のバカにしたような笑いの洗礼を受けた。

「もうだめ、こぐの交代」

「はいはい」

 座り位置を変える俺と見由。

 見由の体重は俺よりはるかに軽いので、移動や座る位置にも気を使う。

 何せ、昨日のチノパンはまだ乾いていないので、湖に落ちてこのショートパンツを失いでもしたら、俺ははくものがなくなってしまう。

 やがて、見由はゆっくりとボートをこぎ始めた。

 達也たちのボートが離れていき、どんどん小さくなっていく。
 
 日は少しずつ高くなり始めていた。

 光を受けて、まばゆいばかりに光り輝く湖面。

 今は昼前くらいだろうか。

 小鳥の鳴く声が聞こえていた。

 俺は耳をすませ、その鳴き声に聞き入っていた。

「穂波さんじゃなくて、残念でしたか?」

 オールを動かしながら、見由が言ってくる。

 会話がないことに気を使ったのかもしれない。

「ん? ああ、そうじゃなくて。小鳥の鳴き声を聞いてたんだ」

「すごくいい声ですよね」
 と、見由は微笑みながら言った。