俺と達也を比べれば、達也のほうが力が強いことは明らかだったので、俺は黙ってそれに従った。

 傘をそのあたりに放り投げ、ロープを伝いながら、下に降りていく達也。

 雨が全身に向かって降り注ぐ。

 その顔の傷は、もう血が止まっていた。

 やがて足場に着くと、達也は星空をおぶって、ロープをつかみながら、上へと上がってきた。

 俺はそのロープを、力の限り引っ張る。

 さすがにラグビーで鍛えているだけあって、達也の体はびくともしなかった。

「よし、一丁上がり」

 達也は俺のいるところまで上がってくると、そう言った。

 俺もこれくらい格好いい男になってみたいものだ。

 だが、自分を鍛えることより、今は二人を無事コテージまで送るほうが先だ。

 俺は下をのぞきこみ、大声で叫んだ。

「穂波ーっ、あがってこれるかー?」

「大丈夫ー!」

 穂波は叫び返すと、ロープを伝って、一歩一歩ゆっくりと上がってきた。

 俺も達也のようにおぶっていってやりたいのは山々だが、あいにくと俺にその力はない。

 かえって落ちる危険が高くなる。

 穂波と声でやりとりしながら、懸命にロープを引っ張る。

 やがて、穂波の姿が、上のほうにまで届いた。
 
 上まで上がってきたとたん、油断と安堵感で、バランスを崩す穂波。

 倒れそうになる彼女を、俺はしっかりと抱きとめた。

 顔と顔が、すぐそばにまで接近する。

 穂波の息遣いが聞こえた。

「大丈夫か、穂波」

「うん……ありがとう」

 こんなときまで、お礼から入る穂波。

 濡れた衣服を通して、彼女の肌の感触が伝わってくる。

 それは冷え切っていたけれど、とても柔らかかった。

「ごめんなさい」

 穂波は申し訳なさそうな顔でそう言った。

 髪からも、水が滴り落ちている。

 俺は彼女に、傘を渡してやった。もう今更遅いかもしれないけど。

「お説教はあとだ。戻るぞ」

「うん」

 穂波はそう言うと、俺の手を握ってきた。

 やはり雨の中取り残されて、心細かったのだろう。

 俺はしっかりとその手を握り返した。そして、コテージに向かって歩き始めた。