「そうだ、さっきの炭置き小屋!」
 達也が叫んだ。

 確かにあそこなら、ロープの一本や二本はあるかもしれない。

「穂波、ちょっと待ってろ! すぐ戻る」

 俺たちは、彼女たちに向かって叫んでから、急いで道を引き返すことにした。
 

 走ること三分ほど。

 俺たちは、例の炭置き小屋に到着した。ドアのノブに手をかける。

「くそっ、閉まってる!」

 俺はノブをガチャガチャと回す。

 木製のドアには鍵がかかっていて、開きそうになかった。

「どいてろ!」
 達也が言った。

 俺は反射的に下がる。

 達也は助走をつけ、ドアの横についている窓に体当たりをした。

 派手な音を立てて、古そうなガラスが割れる。

「よし、あった!」

 達也は割れた窓から中に入り、頑丈そうなロープを一本、中から持ち出してきた。

 ロープが備え付けてあるのは、昔、このあたりでこういうことが何度かあったからかもしれない。

 俺は達也の顔から、一筋の赤い血が流れ出していることに気がついた。

 さっき、ガラスを割ったときについたのだろう。

「おい達也、血が出てるぞ」

 そう言って達也の顔に手を伸ばした俺は、やつの怒号を受けた。

「触るな!」

 滅多に叫んだり怒ったりすることのない達也。

 その怒号は、俺を驚かせるに充分だった。

 体育会系だけに、声量も大きい。

 達也も、自分で叫んでおきながらびっくりしたようだ。

「ああ、悪い。祐介までガラスで怪我したら大変だろう? 大丈夫、このくらいの傷ならすぐ止まるさ。それより、今はそれどころじゃない。行くぞ」

 達也は傷をさすりながら言った。確かに、今はそれどころではなかった。

「急ごう」

 俺たちは、再び元来た道へと走っていた。

 それから三分ほどで、俺たちは穂波たち二人のいた場所へと着いた。

 まだ足場は崩れていない。二人が、心配そうにこちらを見上げている。

「俺が行く。ロープを頼む」

 そのあたりで一番太い木にロープを巻きつけると、達也はそう言った。