そして、麓方面に引き返し、十五分ほど走った頃。

 俺は、風雨の中に、何か違ったものが混じっているのを耳にした。

「待ってくれ、達也」

 先を走る達也を、呼び止める。

「なんだ?」

「今、何か聞こえなかったか?」

「いや……」

 俺と達也は、二人してその場に立ち止まり、耳を澄ます。

 確かに何か聞こえる気がする。

 バシバシッと地面を叩く雨の音に混じって、何か。

「ゆ……」
 声だ。

 俺はさらに聴覚を研ぎ澄ませる。

 聞こえる。

「……く……ん!」

 穂波の声だ。間違いない!

「いる! どこかにいるぞ!」

 俺は思わず叫んでいた。

 しかし、達也にはまだ聞こえていないらしい。

 俺はもう一度聞いてみた。

 山道の下、崖のほうから声がする。

「穂波ーっ!」

 俺は大声で叫んでみた。

 そして、同時に、崖の下に向かってライトを照らす。