雨の中、足場が悪くなっている道を踏みしめながら、ひた走る俺と達也。

 夜の山道で、おまけに地面が濡れている。

 危険なことこの上なかった。

 傘には容赦なく雨がぶちあたり、激しい音を立てている。
 
 俺たちは、山頂方面に向かって走っていた。

 穂波たちがそちらに行ったという根拠はない。

 しかし、上に行くにせよ下に行くにせよ、一本道だ。どちらかで当たるだろう。

 少なくとも、二人を見つけるまでは、俺たちは立ち止まるつもりはなかった。
 
 道の途中、炭置き小屋を見かけた。人はいないようだ。

 今も使われてるのかどうかもわからない。

 それだけ古い建物だった。

 二人が雨宿りしている様子はないのを確認すると、俺たちはまた山頂方面へと走った。
 
 そして、それから十分ほど走った頃、俺は腕時計を見て、それから後ろを振り返った。

 達也と、危なくぶつかりそうになる。

「どうした?」

 息を整えながら、達也が聞いてくる。

「九時十分だ」

「それがどうした? まさかテレビの時間なんて言い出すんじゃないだろうな?」

 笑えないジョークだった。俺はそれを無視して言う。

「戻ったほうがよさそうだ」

「どういう意味だ?」

 達也は不審そうな目をこちらに向けた。

「穂波と星空がコテージを出たのが七時過ぎ。八時前には戻ることにしていたのなら、せいぜい三十分も歩けば引き返しているだろう。俺たちの走る速度なら二十分だ。だけど、俺たちが走り始めてからもう三十分以上経つ。彼女たちに何かあったとしても、その場所はもうとっくに過ぎてるはずだ。麓方面だったのかもしれない。戻ろう」

 俺が説明し、達也は同意した。それにしても、と思う。

 今にして考えれば、なにも二人して山頂方面に走らなくても、一人が山頂、一人が麓方面に行けばよかったではないか。

 知もおそらくそれを見越して、二人を行かせたのだろう。

 それなのに俺ときたら、まったくそれに気がついていなかった。

 自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。