* * *



 澪は保健室のベッドで一人、泣いていた。



「っ……っ……」



 涙が止まらない。



 澪は信じようとしていた人が、信じられなくなってしまいそうだった。



 私……また騙されちゃったのかな?


 そう思うと、涙がとまらなかった。



 その時、保健室の扉が開いた。



「はぁっ、はぁ……」




 荒い呼吸が聞こえる。




 その人物は、澪のうずくまるベッドの前に立つと、その前の薄いカーテンを勢いよく開けた。



 その人物と澪の視線がぶつかる。




「ち……ひろ」



 目の前にいる稚尋は、表情一つ変えずに、ただじっと澪を見つめていた。



 そんな稚尋から、澪も視線を外す事が出来なかった。



「ち……ひろ?」



 澪が再度そう呼びかけた瞬間だった。




「!?」



 稚尋は澪を抱き起こし、そのまま抱きしめた。



 稚尋の匂いが近い。



 それだけで、澪は性懲りもなく、目眩を起こしそうになってしまう。



 何……?




 どうしたの……?



 稚尋…………?




「ちょっ……稚尋っ……」


 離れたくても、稚尋の力に澪は敵わない。



 澪はただ、稚尋の腕の中にいた。



 その間、頬を伝う涙を拭う術などなく、涙は流れ続けていた。


 苦しい……苦しい……。



 こんなに苦しい恋なんて、したことがなかった。



 もう、逃げ出してしまいたい。



 ただ、それだけだった。




「やっ……やだっ……」




「泣いてるのか?」



「…………っ」



 気がつくと、稚尋は澪の顔を覗き込んでいた。



 澪の頬が赤く染まる。



 いやだ……。



 こんな酷い顔、見られたくない。



 澪は大きく稚尋から顔を背けた。