澪が走り去った後、稚尋は雛子を突き放した。



「雛、どういうつもりだ」


 澪を泣かせやがって。


 お前も、澪を騙してたのか?

 悪びれる素振りのない雛子に、稚尋は呆れたように大きなため息をついた。


 稚尋を見て、雛子はニヤリと笑う。



「どう言うつもりって……雛はちーに会いに来たんだよ?」



「説明になってない」



 甘ったるい声で呟く雛子の声を、稚尋は切り捨てた。

 それを見て、雛子は頬を膨らませた。


 なによ。


 なによ……!



「フンッ……形勢が変わったみたいね? ちーが好きな雛に、雛が嫌いなちー」


 昔は逆だった。


 そう呟きながら、雛子はまた稚尋の腕に擦り寄った。




「嫌いじゃないけど、好きでもない」


 確かにほんの少し前は、稚尋はお前を引きずっていた。



 だけど、澪に会って変わったんだ。



「曖昧ね」


 そう言って、雛子はフッと鼻で笑った。



 そして。


「でも……あのキスは雛だけのものだよ?」



 雛子は不気味に笑った。



「…………」


 自分はどれだけ間違いを犯してきてしまったのだろうか。



 正直、後悔している。



「悪かった」



 今更謝ったところで何かが変わる訳ではない。



「ごめん、雛っ……」



 稚尋は澪の後を追った。



 お姫様。


 君を一人で泣かせる訳にはいかない。



 俺が、行かなくちゃ。


 姫…………。



 雛子は歯を食いしばった。


「何よ……っ!」