「ひ…ろき……くん」


奈々は辛そうにしているのに、まだ俺に声をかける。


「奈々、また元気になったら話そう。今は大人しくしとこう。」


「あ…えて……よかっ…た…よ。つき…あ…えて、…し……あわ…せ」


「奈々っ…」


お母さんは顔をふせて、声を出さずに泣いていた。


「わ…た……しの…ことは……、わ…すれ…て……?」


「なんでっ??なんでだよ、奈々っ!!」




「や…く……そ…く、し…て?」


「…嫌だっ、嫌に決まってるっ!!」


「お…ねが…い」


奈々がそのとき、俺の手を強く…強く握った。目はもう虚ろなんかじゃない。しっかり俺を見据えて、約束の言葉を待っている。もう…見ていられない。


「わかっ…、分かったよ…。奈々、約束するよ…。」


そのとき、ふっと奈々の力が抜けて、手が音をたてて落ちた。
奈々は昔の笑顔で微笑んだ。俺も涙でぐちゃぐちゃな顔を袖で拭いて、笑い返したとき……。



ピーーーー


鳴りやむことのない音が、奈々がもうここにいないことを教えてくれた。