それから何ヶ月も、奈々の容態は安定していた。安定していたのに…、神様は…イジワルだった。


突然の着信。
日曜日の夜のことだった。


『奈々の容態が急変してっ…、今…危ない状態なの…。早く来てほしいの。奈々が呼んでるからっ。』

お母さんの声。電話を切る前に、家を出て走っていた。


病院まで30分とかからず着いて、すぐに看護士さんが病室まで案内してくれた。




…そこにいたのは、呼吸器をつけた奈々。隣にはお母さんがいて、手を握っていた。目は…開いていない。


「奈々っ、俺が分かるかっ!!??聞こえるかっ!?」


奈々がそっと、うっすら目を開けた。しかし、目は虚ろで焦点が定まっていないようだった。


「ひ…ろき…く…ん……?」


「そうだよ。俺だよ。気をしっかり持てよ??絶対寝るんじゃないぞっ!!」


「あ…の……ね、」

「もおいいから、しゃべるな、なあ??」


それでも、奈々はしゃべり続けた。


「ひき…だ…しに…。」


お母さんが空いた片手で、引き出しを開けて、何かを取り出した。そして、奈々の手にうつし、奈々は震える握った手を、俺の手の上においた。


「た…いした…もの……じゃな…いけ…ど…。」



星のストラップ。右が赤を基調に、左は青を基調としている。それは、俺のミサンガと奈々のミサンガの色だった。


俺は大事に握りしめて、ありがとう、と言った。 奈々はかすかに笑った。あのころの笑顔はもう…ない。