私は息を整えた。
今、全ての気持ちを伝えなくてはいけない。
一つだって、伝え忘れちゃいけない。
どんな結果に終わっても……、












私は後悔なんてしない。












「私、たけ兄って呼びたくないの。」











「は??」












「ずっと、嫌だったんだ。『たけ兄』て呼ぶたび、お兄ちゃんなんだって、自分に言い聞かせて、自分をセーブしてるみたいで、嫌だった…。」












「…」











「私、前にも言いかけたことがあった。石原咲子と付き合ってるか聞いたとき…。私の気持ちは、今でも、少しも変わってないよ。猛が…好き。お兄ちゃんだなんて、もう思えないの。猛は、私の…好きな人だから。」













「真知子…。」













「あのフランスの画家の話ね、私たちに似てるよね。兄と妹。血がつながってたかどうかまでは分からない。けど、あの絵見て思ったんだ。当たり前を当たり前に思えない自分がいるって。当たり前のように、朝おはようっていって、当たり前のようにおやすみが言えて、当たり前のように、兄と呼ぶ。でも、私は当たり前を崩すような気持ちを、ずっと前から持っていた。これを伝えたら…、この当たり前は当たり前じゃなくなる。」












猛は黙って、ただ黙って聞いていた。