来る。




近づいてくる。








黒田信二が、近づいてくる。











私に逃げ場は…ない。





背中を壁にうち、つい小さな声で、痛っ、と言ってしまったが、黒田信二は心配のひとつもしない。






むしろ、まだまだ近づいてくる。












「冗談だと思ってたの??」





「そ、そりゃ…。」










「冗談で言うわけないでしょ??」






黒田さんなら言うでしょ。



その言葉は飲みこんだ。









「分かんないじゃないっ!!第一、私がたけ兄のこと、好きなの知ってるのにっ!!」














「だから??」












「…え??」












ばんっ








私は手元にあったティッシュの箱を投げた。








「私の気持ち、届くわけないって最初から思ってたのっ!!??私は、1000分の1でも1億分の1でも、たけ兄が思ってくれたらいいって、小さな望みにかけてたのッッ!!たけ兄が私のこと、『妹』だって思ってることぐらい、私が誰よりも分かってたのにっ、ど-してあんたがっ…、あんたが言うのよ…。卑怯じゃない…。」









黒田信二は私を抱きしめた。私がどんなにどんどん叩いても、離れようとしても、力を強めるだけで、とうとう観念した私は、黒田信二の胸に安らぎを感じてしまった。