カラン カラン

「おっ!こりゃ珍しい、お客さんじゃねぇか」

「バカやろう!このタダ飲み風情が!」

 町外れに、小太りの店主と、客はいつもツケと言って払わない長身の男だけの、小さなカウンターバーがある。

「さぁて、何にしやすか?今なら勇者祭で安くご提供させてもらってやす」

 店主は久しぶりの客のせいだろうか、必死に接客するも、客は一言も喋らず、一番奥の席に着いているだけだった。

「また、決まったらお知らせくだせぇ」

 客はコクっと頷く。

「薄気味悪い野郎だな」

「バカ!お客さんに聞こえるだろうが!」

「だって、見てみろよ。あの格好」

 長身の男が薄気味悪いと感じたのも無理はない。客は一言も喋らず、全身黒装束に包まれ、背中には大きな剣を背負っており、男か女なのかも分からない。時々、何かを探しているのか、辺りをうかがう仕草が薄気味悪さを一層かもし出している。