何事かと思えば

「樋口先生、いきなりそんな事を切り出されても・・・」

当惑気味の連れの男に先生と呼ばれた男は笑っていた。
見れば上等の着物と、身嗜みもしっかりとしている。顔色もよくとても酔っているようには思えなかった。
髪は年相応に薄くはあるが、実家の父と比べればまだ元気に茂っている方だ。それに樋口と呼ばれた名前。
この名前には心当たりが実はある。

「樋口・・・雄大先生?」

選考委員の一人にも抜擢されている日本においての近代美術の第一人者として有名な人だった。